わたしの姫君
「でもよかった。リュクスのこと気になってたから」
ルシアにとってはきっと何気ない一言だったに違いない。だが、リュクスはその一言で動きを止め、真剣なまなざしでルシアを見た。
「どうしても行くの?」
「うん」
「……なんで?」
「たくさんのことを経験したいの。知ってる? 人間界には精霊だっているのよ。海だってある」
ルシアの言葉に、リュクスは時おり頷きながら、寂しそうな表情で黙って聞いた。
「あたしは決められたことだけをやるのが好きじゃないの。自分のやりたいことを自分で見つけたいの」
「……うん。ルシアは授業でもそうだったよね。先生が火を熾しなさいって言っているのに、ルシアだけ水を出して教室水浸しにさせていたり。――懐かしい」
心の底から懐かしむ声に、ルシアは頷いた。
リュクスに会うまで、考えてもいなかったことが、不意に口を衝いて出た。
「リュクスは、一緒に行かない?」
一度言葉にしてしまえば、思いは止まらなかった。
自分が誘えば、共にきてくれるかもしれないという思いが強くなり、そして胸が高鳴った。一人が寂しかったわけではない。けれど、二人ならもっと楽しいかもしれないという気持ちが膨らんだのだ。見知らぬ土地で、見知らぬ人たち、食事、生活。戸惑うことも多々と直面するだろう。そのたびに、隣に誰かいたら、どれほど心強いか。無意識に、本当にとっさに出た言葉だったが、リュクスに一緒に来てもらえたら嬉しいと、本気で思った。自分の誘いを断らないと、自信があったのかもしれない。
けど、リュクスは一瞬目を見開き、そしてゆっくり首を横に振った。
その瞬間、高揚していた自分自身が恥ずかしくなった。
「そう――だよね」