わたしの姫君
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フェルーラに導かれて町に到着した頃は、すでに日は真上まできていた。早朝のからっと乾いた風はどこにいったのか、うって変わって湿った風が気持ち悪い。気温も随分と高くなってきたせいで、本来暑さを和らげてくれるはずの風も、今はただ神様がいたずらを楽しんでいるとしか思えなかった。
そんな気温の変化もあってか、フェルーラは常にルシアを気遣っていた。町への道のりの途中で何度も立ち止まっては休憩を求めたし、疲れたのでと言って歩く速度を落としたのも、きっと彼自身ではなくルシアの身を思っての行動だったに違いない。しかし、慣れていないのだ。魔界での自分への扱いは、時に偉丈夫に対するそれよりも雑だったから。酷暑であろうが酷寒であろうが、ましてや一日足らずで行き来できてしまえる道のりを気遣うなど、今まででは考えられない。だからだろうか、妙にこそばゆく、つい口を閉ざしてしまう。フェルーラが時おり、振り返ってルシアと目を合わせて微笑むのに対し、微妙な笑顔を返すのがやっとだった。
「やっと着きましたね」
ルシアの複雑な心境など知りもせず、爽やかに、それは爽やかに言った。
やっと、という割には汗ひとつかいていない。旅具を見る限り、慣れている風にも見えなければ、体力に自信があるようにも見えない。
(変な男……)
ある意味、怪物じみたその男をちろりと盗み見るようにして、ルシアは頷いた。
「そうね。お昼かー。何か食べたいところだけど、とりあえずあたしは酒場に行きたい。あんたは?」
「おや、奇遇ですね。私も酒場に用があったのですよ」
酒場?
まさか!
ますます胡散臭い。
のど元まで出かかった叫び声をなんとか堪えてみせたものの、今にも眼球が転がり落ちてしまいそうなほど見開いた目を見て、フェルーラは苦笑した。
「そんなに意外ですか?」