わたしの姫君
「あ、うん……ごめん。強そうに見えないから」
「酒場には屈強な方たちが多いですからね。でもそんなことを言ったらルシアさんだって強そうには見えませんよ? 気が強そうではありますけどね」
「失礼ね! あたしはそんじゃそこらの男には負けないわよ! 失礼な上に一言多いのよ」
「失礼なのはお互い様ということで。でも残念なことに、私は仕事を探しにいくのではなく、持ち込んでいる側なので」
なるほど。と、このとき初めてフェルーラに対して納得がいった。
朝から晩まで、そして夜が明けても酒場が店を閉じることはない。一年中、たとえ世の中で祭りだ祝いだと騒いでいるときですら、酒場は開いている。
酒場に集まった仕事をこなし、その賞金で生活を賄っている賞金稼ぎと呼ばれる者ら。もちろん中には命の危険を伴う仕事もある。だが、賞金稼ぎもれっきとした仕事なのだ。確かに荒くれ者と呼ばれてもおかしくないような者たちが多い。フェルーラと正反対の体つきで、飲んだ酒がすべて筋肉になっているのではないかと疑ってしまうほどだ。そんな彼らが集まる場所が酒場である。仕事を受けるのも酒場なら、また仕事を持ち込むのも酒場。フェルーラのように華奢な男が出入りしていても場違いではない。中には声変わりも訪れていないような幼い子供ですら出入りするのだから。
本来の酒場は酒と食事を嗜む場所だったのだという。だが、現在は酒場の利用者の半数以上が仕事目的だろう。人間界も魔界も、それは変わらないのだと知ったのは、ルシアが人間界に訪れてまだ間もない頃だった。