アパートに帰ろう
すっかり濡れてしまったメモを頼りに、到着したのは黒いレンガ造りのビルだった。

あれから何件か店を回ったが、すべて門前払い。


いや、パン屋の親父だけ雇ってはくれなかったが、少しのパンをくれた。


しかしそれくらいで3日間何も食べていない私の腹は満ちるはずもない。


眼がかすみ、手足の感覚がなくなりはじめ、もう限界だと最後の力を振り絞ってメモを握ったのだ。


あのただならぬ雰囲気の男の子からもらったメモ。

怪しいけれど、もう他に頼りはない。


生きるためだ。


我が儘はいえない。


私は傘をたたんでビルに入り、黒い扉をノックした。


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