アパートに帰ろう
男の子が顔を手の平で隠す。

次の瞬間。

そこにいたのは、銀色の髪をオールバックになでつけた、スミレ色の眼の男だった。


髪と眼の色以外、さっきまでの男の子の面影はない。



「外に出るときは変装することにしてるんだ。変装を見るのは初めてかい?」



いや、ダディの変装は何度か見たことがある。

でもこんな体型をまるっきり変えてしまうようなものではなかった。


私はただ呆然として言葉がでない。



「ところでローレンスはどうしているんだ。元気にしているのか?」


男のことばに息が詰まる。

なんとか搾り出した声は震えてしまった。


「ダディは、……3日前に、息を引き取りました」

「……そうか」



男は目を見開いた。
そしてどこか遠くを見てから、私に向き直る。



「それで君は行く宛がなかったのだね」

「はい」

「彼はね、病にかかってから、軍を抜けて失踪したんだ。最後に君のような後継者に会えて幸せだっただろう」

「ありがとうございます」



優しかったダディを思い出し、涙がにじむ。

男は何かを考えるように目を閉じたのち、私に手を差し延べた。



「親友の娘を放ってはおけないな。僕の組織に来ないかい?」

「え?」

「いや、最初にあの身のさばきをみたときから、決めていたことなんだが。……僕は君の能力が欲しいんだ。簡単な仕事じゃないが、君ならできるだろう。ウチの組織の待遇はいいよ。どうだい?」



簡単な仕事じゃない。その意味はなんとなくわかった。


でも、ここしかない。


ダディが教えてくれた能力が役に立つのだ。



「よろしくおねがいします」



私は涙を拭いて、男の手をとった。
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