アパートに帰ろう
「こちらの教材を買って頂ければ、漏れなく電子辞書をおつけしていますよ」

「ふーん」

「い、今契約して頂ければ分割払いでお安くなっております」

「そう」



カフェに来てからかれこれ1時間。約束の12時はとっくに過ぎてしまっている。

昼ごはんに頼んだホットケーキを食べおえ、暇になった私は、隣のテーブルを見ていた。


商品を強引に売り付けようとしている女を、まったく相手にしない男が面白いのだ。


ばくばくとサンドイッチやグラタン、スパゲティを食べている、赤ジャージの男。

女は痺れを切らしてどこかへ電話をかけている。



なんだろうと見ていると、屈強そうな2メートルはあるような男がやってきて、赤ジャージの隣に座った。

それだけですごい威圧感。


あぁ、これ、ダディから聞いたことがある。キャッチセールスとかいうヤツだ。


客を店に連れ込んで、無理矢理、高い商品を売り付けるらしい。

大男は脅しのために呼ばれたんだろう。


でも、赤ジャージは気にしていない。ひたすら食事を続けている。

そして、今までどおり女の話を無視しつづけ、大男の無言の圧迫も完全にシカトしている。


何者?ばかなだけ?


そう思ったが、赤ジャージが言った言葉で納得した。



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