アパートに帰ろう
「おねーさん。おれ、大事な仕事の待ち合わせがあるんだよ。もう遅刻だから急がなきゃ。ごはん奢ってくれてありがとう」



早口にそう言って、帰ろうとする赤ジャージに、セールスのお姉さんが口をあんぐりと開けた。


もしかして、彼が、今日の私のパートナー?



「お、奢るなんていってませんよ!」

「えー、言ったじゃん。だからこんなに食べたのに」



高く積まれた皿を見て赤ジャージが言う。

怒りに震える女が、男に目線で指示した。


それを合図に、大男が赤ジャージにつかみかかる。


しかし。



「……ッ、グフ!」

「ホント、おれ急いでんの。お勘定よろしくね」



赤ジャージは男に膝打ちを食らわしたあと、かがみ込もうとした男の首元に手刀を落とした。

華麗な技だ。男以外何も傷つけていない。

テーブルに高く積まれていた皿が揺れることもないくらい静かだ。


周りの客も唖然としている。



気絶する男を乗り越え、赤ジャージは怯える女に微笑んだ。



「ごちそうさま」



そして軽く会釈してカフェをキョロキョロ見渡す。



「あぁ、なんだ隣のテーブルにいたんだ。君がアンナだよね?ごめん、おまたせ!」



私の写真を取り出してみせ、にこりと笑う赤ジャージ。

店中の客と店員がこっちを見ている。



「とりあえず店変えませんか?」



私の言葉に不思議そうに首を傾ける赤ジャージ。

その手首をつかんで、外へと連れ出した。
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