アパートに帰ろう
「おれはトーマス・ボナ。みんなにはトムって呼ばれてる。歳はアンナと一緒だからよろしくね」



にこにこ微笑むトムに資料を渡す。

間近で見ると綺麗な顔をしてる。

ボサボサの黒い前髪の奥に透き通ったグレーの瞳が見えた。



「指令書によると、これから正装に着替えて潜入みたいだね」

「……わたし、正装なんてもってない」

「あはは。おれもー。どっかで借りてこ」



これから仕事とは思えないほど暢気なトム。

さっき大男を倒したときの殺気は微塵も感じられない。


まさかキャッチセールスの人達も、こんな上下赤ジャージで髪ボサボサの男があんなに強いなんて思わなかっただろう。



「アンナきてきて!あそこの店、うちの組織がひいきにしてるんだ。一式揃えてくれるよ」

「……店?どこ?」

「ほら、あのシャッターが半分降りてるとこ」

「あれ、廃倉庫じゃ……」

「まあまあ。ついてきてよ」



トムに引っ張られ、シャッターの向こうに潜り込む。

真っ暗な、その倉庫は古びた油の匂いがした。



「やっぱり、ただの倉庫みたい」

「おれのことちょっとは信用してよー。おっ、入口ハッケーン!」



トムがぐいっと木の箱を押す。すると、そこが崩れて通路が見えた。



「この奥だよ」



ずんずんと進んでいくトムの背中を追い掛ける。

通路は地下へと繋がっているようだった。階段を下がりきると、扉が見えた。



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