アパートに帰ろう
サリバン通り
「おねがいします!ここで雇ってください!」

「悪いねえ。お嬢ちゃん。身元が分からないと雇えないんだよ」



もう何度このセリフを聞いただろう。

雨に濡れ冷え切った手をこすりあわせる。



サーカス団を逃げてきた時点で、私の身元を証明するものはない。


それに、ボロボロの真っ黒なマントを羽織って、雨に濡れた私は、さぞみすぼらしいようで、どの店も相手をしてくれない。



「……ダディ」



いつか、ダディがプレゼントしてくれたネックレスをにぎりしめる。


どうしよう。寒いよ。どこにも私の居場所がないよ。


帰る場所がないよ。



寒さと空腹と疲れで、泣くことすら出来ず、私はただ街を歩いた。
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