アパートに帰ろう
なぜか敬語で答えてしまったのは、男の子のただならぬ雰囲気からだろうか。


絶対に逆らってはいけないと脳が全身に指令をだしている。



「どこかへ向かう途中なのでしたら車を呼びましょうか?助けていただいたお礼に、ご案内させてください」

「いえ、特に宛はなくて」

「宛、ないんですか?」

「……実は、新しい職を探しに街に来たんです」

「そうですか。職は見つかりそうですか?」

「いえ、どこも門前払いで」



そういうと、男の子は、うーんと唸ったあとメモを取り出し何かを書きはじめた。

そして、1枚ちぎって私に差し出す。



「どうしても困ったらここにきてください。今日のお礼がしたい。それからこの傘を使ってください」

「……あ、ありがとうございます」



私がメモと傘を受け取ると、男の子は颯爽と去っていった。


雨の中、私はそれを呆然と見送ったのだった。



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