万年樹の旅人
「最近、噂になってるぞ」
買出しを終えて、ゆっくりと城に向かって進んでいたジェスの足が止まる。一歩先で止まった男を見ると、男は果実にかじりついたまま、ジェスを振り返った。
「姫さんとよく会ってるだろう?」
「リュウ、俺は――」
言いかけた言葉を、リュウと呼ばれた男が笑顔で止めた。ごつごつした手の感触が、乱雑にジェスの頭の上で動く。
まるで駄々をこねた子供にするみたいだ、と思いながらもジェスは心地よさを感じていた。
「とにかく、こいつら持って帰らなきゃいけないだろう」
ああ、と頷きながら、ジェスは背を向けてしまったリュウの後ろ姿をぼんやりと見つめた。野で凪ぐ草のように、リュウの髪が風に合わせて揺れる。一箇所だけ寝癖がひょっこりと顔を出しているのを見つけて、思わずジェスの頬が綻んだ。
リュウとは、同じ騎士団に所属する同士でもあり、たった一人の友人でもあった。
誰もがジェスの外見を見ては薄気味悪いものでも見るように、さり気無く遠ざけていく。だが彼だけは初めて会ったときから、違った。
懊悩としていた自分の気持ちなど瑣事だと思わせるほど、彼の印象は強烈で、新鮮だった。道に捨てられている子猫を見つけたときのように、みなジェスの外見については口にしない。触れない。見てみぬふりをする。そうして心の中では、そんな姿に生まれて気の毒に、という哀れみも含まれていることをジェスは知っている。だが、リュウは笑いながら言ったのだ。
「黒い色っていうのもいいものだな。強そうだ。――っていうか、その色もともとなのか?」」と。