万年樹の旅人

「おい、おまえ何描いてるんだよ」

 突然、頭上からなじるような声が聞こえ、ユナは顔を上げた。

 いつの間にこんなに近くまでやってきたのか、見覚えのある少年が三人、ユナの周りを取り囲むようにして立っていた。そのうちの一人、一番背の高いがっちりした少年が、ユナを睨みつけながら言った。

 普段、他人の視線から逃げるように俯いて過ごしているユナは、同じ教室の子供の名前もあまり覚えていない。この少年らも、よく見知った顔であることはわかるが、名前がいっさい出てこなかった。

 ぼんやりと、少年たちの顔を見ていると、声をかけた少年がイライラと眉を顰めた。周りの二人はその様子を見て、くすくすと笑い出す。

「聞いてんのかよ!」

 突然の怒鳴り声に、ユナはびくりと肩を震わせた。

 彼らの視線の先がユナではなく、その先にあるキャンバスだと知り、ユナも視線をキャンバスに戻し唖然とした。

 無意識のうちに描いていたのは、夢の中に出てきていた万年樹の庭園の姿。葉は緑ではなく金色に塗られており、どこを見渡してもそのような木はこの辺りにない。その絵を見た少年らは「また変な妄想してる」と囁きあい嘲笑していた。

 相変わらず怪訝そうに表情を曇らせながらも、目の前に立つ少年は苛立っている。その証拠に、片方の足がせわしなく何度も地を踏みつけていた。

 ――いつになってもこういう状況は慣れない。

 ユナは心に重い石でものせられたかのように、気が沈んだ。

 少年らの視線を避け俯くと、粗末な靴のつま先が見えて更に惨めな気分になった。

「そんなところで集まってなにをしているの!」

 広い公園でもよく通る、若い女性の声が聞こえてきた。顔を上げてその存在を確認すると、ユナはほんの少しだけ安堵した。
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