万年樹の旅人
「先生! こいつ変な絵描いてる!」
「……あなたたち、またユナくんをいじめてたの?」
女性教師は、ユナの周りに群がる少年らを見渡し低く洩らした。
「何描いてたか訊いただけだろ!」
「ニコル」
教師が落とした、ため息と共に出された名前を聞きユナは初めて目の前の少年がニコルという名だと知った。
「とにかくあなたたちは戻りなさい」
ニコルがわかりやすく舌打ちを残し、やがて鋭い一瞥をユナに投げやると背を向け去っていった。最後まで嗤っていた残りの少年二人も、ニコルの後を追うようにして駆けていくと、辺りは重苦しい沈黙が流れた。
「――この絵は以前言っていた月のお話からきているのかしら?」
咎めるわけでも、責めるわけでもない教師の口調に、ユナはただ頷くことしかできなかった。俯いたまま、本当は子供の妄想だ、とばかにしているのではないか、と悪く考えてしまう。
顔を上げることもせず、何かを耐えているような様子のユナをちらりと視線だけで伺うと、女教師は少し寂しそうに微笑んだ。
「ラムザさんは、私の先生だったのよ」
素早く顔を上げ、目を見開き女教師を凝視した。
「ラムザ爺さんのこと知ってる……んですか?」
「そうよ」
頷いて、再び視線をユナの絵に戻した。