恋愛の条件
10時にブリーフィングが始まり、奈央は平静を取り戻し会議に集中した。

ブリーフィングは修一と片桐の出張報告とサイバーマイクロ社との今後の工程についてが主だった。

「今のスタッフの数では時間的に少々無理がありますね?」

「そうだな、これからノースアメリカの受託開発だけでなく、中国にも重点を置いていくからな。今WILインターナショナルとも話が出ている」

「「「えっ?WILもですか?」」」

会議室にいた全員が驚く。

「まだ確定ではないが、俺と黒沢とで出張に行った時に話はつけてきた」

「まぁ、サイバーマイクロ社との話が漏れていたのでスムーズでしたよね?」

WILインターナショナルと言えば、サイバーマイクロ社と並ぶ大手だ。

それをピクニックへ行ったついでのように二人は話すのだ。

「海外出張が月の半分を占めそうね?現地スタッフを増やした方が能率がよさそうだわ」

ずっと黙って聞いていた山内課長が口を開いた。

「そうですね。技術スタッフはともかく、営業サポートが必要ですね」

黒沢が断定的に答える。

「午後から部長会議があるから、もう一度このブリーフィング資料の修正とWILの資料を……」

山内課長には何か考えることがあるらしく、独り言のように呟いた。

「広瀬さん、あなたにお願いしてもいいかしら?ちょっとWILの方は大変かもしれないけど」

「はい、了解しました」

私でいいのだろうか、と奈央は会議室内を逡巡したが、上司命令には逆らえない。

自分のこなせることを精一杯頑張ろう、と手元の資料に視線を落とす。

今の話し合いでの修正を多少入れなければいけないが、それ以外は完璧な修一の作った資料。

昨日出張から帰ってきたというのにいつの間にこれだけのものを作ったのだろうか。

修一も片桐も疲れた顔ひとつ出さない。

この部屋に人間サイボーグが3人。

それに比べて自分はなんと中途半端なんだろうか。


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