恋愛の条件
「もう花見シーズンも終わりだな……」

「片桐さん……」

「忙しくて結局今年は花見には行けなかったな……」

「今からまだ仕事ですか?」

「あぁ、接待だ。黒沢が色んな企画を持ち上げてくるからこっちは休む暇もない……」

山内課長の耳に入った今、片桐が知らないはずがない。

きちんと話さなければ。

「…………」

「そんな顔するな」

「片桐さん、私……」

「黒沢から聞いた」

「えっ……?」

片桐は胸のポケットからタバコを取り出し、口に咥えると、ゆっくりそれを嚥下した。

「ごめんなさい」

奈央は深く頭を下げた。

「謝るな」

「でも……」

「頭を下げられるのは黒沢からだけで十分だ」

奈央ははっと顔を上げる。

「どういう……」

「あいつが頭を下げるなんて思ってもなかったからな……正直驚いた」

「修が?」

「黒沢が2ヵ月でニューヨーク支社に戻るのは最初からわかっていたが、今広瀬さんにまで抜けられると、こっちは大打撃だ」

「そんなこと……」

「俺自身も……」

「…………」

「だからそんな顔するなって言ったろ?美人が台無しだって前に言わなかったか?」

タバコをふくみながら、片桐は優しく微笑する。


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