恋愛の条件
「何作ったの?」

「ビーフシチューだけど?」

「意外……奈央が料理できるなんて……」

修一は本当に以外そうな顔をしている。

「失礼ね!ひと通りのことくらいは出来るわよっ(ただしないだけで……)」

「うまそ~♪食べていい?」

「うん、今準備するから待って。それにしてもホント物がないわね?最初何を作ればいいかわからなかったわ」

女には嬉しい広いキッチン周りだが、最低限の物しかない。

このビーフシチューも材料をただ切って手鍋に入れるだけだから出来たようなものだ。

「あぁ、2ヵ月だけだし、基本的にモノ増やすのも好きじゃないしな……」

「ねぇ、聞こうと思ってたんだけど、修って向こうでちゃんと家事とかしてたの?」

「俺?あぁ、してたけど、それが?」

「ううん……ご飯も?」

「外で食べることは多かったけど、家にいる時は大抵自分で作ってたなぁ……」

「へぇ……何か部屋もキレイだし、ちょっと意外……」

テーブルにご飯の準備をしながら、部屋の中を見渡す。

「そ?俺毎日掃除機かけるし、洗濯物もためるの嫌いだな。結構家事は好きだけど?」

「そうなの!?」

奈央は目をぱちぱちさせた。


(毎日掃除機って……私、週に一回よ?洗濯物もめちゃくちゃためてるわ……)


「奈央は?」

「で、できることはできるけど、あんまりしたくない方ね。私って『奥さん』ってガラじゃないと思うのよねぇ……」

「まぁ、俺がちゃんとできるからいいんじゃない?なぁ、食っていい?」

余程お腹がすいているのだろうか、着替えもせずに、スプーンを口に咥えている。

29の大の男のそんな姿に奈央の胸がキュンと鳴る。

「どうぞ?」

いただきます、と手を合わせおいしそうに最初の一口をほおばる。

こんな些細なことが幸せだ、と奈央は感じた。


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