はらり、ひとひら。
その後のことはよく覚えていないが、婆様に言われるまま棺桶に近づくと父が横たわっていた。正確には父だったもの、か。
なるほど確かに右半身が見当たらない。─信じられなかった。
誰かが「三日三晩苦しんだそうだ」「名のある祓い人、強固な回復力も使い方によっては末恐ろしいものだ」と唸るように呟いたのが遠く聞こえた。
「世継ぎはどうなる」
葬儀を終えてから、見知らぬおじさんが徐に声をあげた。
怖い顔をした大人が広間にみっしりと詰められ、俺は皆より一段高い畳に座らされた。
隣の婆様が嘆息し、苦々しい声を上げる。
「まだ決められる状況では」
「頭領を失った痛手は大きいぞ。妖どもに知られたとあればここも潰されかねん」
「早急に立て直さねば」
「分家の我らにも被害が被ってはかなわん。仮でもいい早く代理を…」
言い争う声が暫く響いただろうか。
その声をもみ消すようによく通る男性の声が割って入った。
「静まれい!! 若の御前で何という有様じゃ!」
立ち上がってお祖父さんは俺の眼前にやって来て頭を下げた。
「ご無礼をどうかお許しください。…自分は分家、宝生壽二(ほうしょうひさじ)にございます。先代、渉貴様のご逝去を悼み…心から哀悼の意を表しますとともに、故人のご冥福をお祈りいたします」
なんだか難しい言葉を並べられたが、幼くともその言葉が父の死を悼むものだということは察した。
「若様。…若様は、世継ぎに関しての一件をどうお思いで」
世継ぎ。唐突に質問を投げかけられて、面食らう。
「おいっ貴様何を聞いて…!」
「若様はまだ6つだぞ! このような問題は大人のみで決めるのが筋だろう」
批判が飛ぶ。さっきまでこの部屋でさめざめ、涙を流していた大人が何をのたまうのか。
大声に臆することもなく、宝生と名乗った男性は言葉を返す。