はらり、ひとひら。
「黙らんか! 尤(もっと)もらしい言葉を並べて、姑息な手段で当主の座に伸し上がろうと目論む猿どもめ!」
その声はよく響いた。隣の婆様を見やれば黙って宝生さんを見ていた。痛いところを突かれたのか、数人の大人たちは歯噛みしていた。
その様子を見てふん、と宝生さんは鼻を鳴らす。婆様の少し抑えた声が広間に伸びた。
「世継ぎに関してはまた日を改めて取り決めましょう。…異論のある者は立つように」
誰一人として、席を立つ者はいなかった。
「若様。貴方が臆する必要は何一つないのですよ。決定権は貴方にもある。…貴方は直系の、神崎という血を確かに受け継いでいるのですから」
誇りを持って良いのです、笑い皺をいっぱいつくりながらおじいさんは笑った─
・ ・ ・
「なあなあ、おい。おいってば」
ぞろぞろと大勢の大人が門から出ていくのを婆様と見送っていると、黒髪の少年に呼びかけられた。
年は明らかに自分より上だった。つり目がややきつい印象だ。
「お前、大分好き勝手言われてたけどさ、継ぐの?」
元からあまり人と喋るのが得意ではない俺は、「わからない」とだけ答えた。
「ふーん」
「…君は誰?」
訊ねるとあぁと思い出したように少年は微笑んだ。
「おれは宝生千鶴!」