はらり、ひとひら。
宝生。あ、さっきのおじいさんの…
「じーちゃんかっこ良かっただろ。よかったなお前、あのままだと大騒ぎになってたぞ」
「…うん」
じいちゃんって呼ぶってことは、じゃあこの人はあの人の孫か。
「まあゆっくり考えたらいんじゃねえ? おれんとこも一応分家だから、あいつら…大人にいじめられたらウチ来いよ」
「えっ…」
それは思いもよらない言葉だった。何も言えずにいると、少し先からもう一人の少年が手を振った。同じ黒髪の、少しだけ彼よりもモサっとした。
「千鶴、いくよー」
「やべっ。…じゃあ、またな! 真澄」
「え。…うん。また」
駆けていく背中を見ながら、嵐のようだと思った。
クラスメイトにも久しく名前を呼ばれていなかったので、いきなり呼ばれて胸のあたりがどうしようもなくむず痒くなった。
・ ・ ・
月日が流れた。
世継ぎの騒動はやはり一悶着あった。そのさなかでストレスを受けた伯母からは邪険にされたし、一部の分家とは対立が深まってしまった。
最終的に、俺が14代目を継ぐということでことは落ち着いた。
父の遺した手紙─万が一の時に用意されたものだろう、それにも『次代の当主の座は真澄に譲る』という明確な遺志があったのも大きかったのだと思う。
とはいえまだまだ修行中の身。婆様が後見となり、俺の教育係となった。
高校を出たと同時に俺は一生をかけて神崎という家の名に恥じぬよう生き抜く。この家紋はみすみす他の誰かに渡せない。崩れるわけにはいかないのだ。