はらり、ひとひら。


なつかしい匂いで部屋が満ちていた。母の匂い。不思議と安堵する匂いだ。

母は車いすに腰掛けて光の差す窓の外を見ていた。


「母上…」

「真澄さん」

呼びかけると、ふわりと微笑む母。…ひどく恋しくなって傍へ行くとかさかさの細い指が、確かめるように俺の顔を撫でた。


「母上、お加減は」

「今日は調子がいいのよ。大丈夫…寂しい思いをさせたでしょう、ごめんなさい」

「母上のせいではっ…」


悪いのは母上じゃない。誰のせいでも、誰が悪いなんてことはない。じゃあ─誰が悪い?


この厄災を振りまいた原因は?


『いやぁ…寄るんじゃないわ! この、物の怪!』

─伯母は…梢恵伯母さまは、父が亡くなってからおかしくなってしまった。

元々あまり笑わない俺が可愛くなかったのだろう。伯母と遊んだ記憶はあまりないが─彼女の変わり様は、年端の行かぬ俺でも異様だということは簡単に見て取れた。


家の中で俺を見るたび酷く怯える様になり、化け物だの、物の怪だの、俺が不幸を運んできたと泣き叫んだ。


婆様からは「気にしないように」と言われたが、本当に、俺が諸悪の根源なのではないか。

そう思わずにはいられないほど、父の命日を境に使用人や伯母と俺の間には大きな壁ができてしまったし、一線引かれてしまったのだ。





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