はらり、ひとひら。
「伯母様」
中学にあがった頃だったか。珍しく廊下で梢恵伯母様と鉢合わせした。久しぶりに見た彼女の顔色はひどく、何かに怯えるように薄い肩が震えていた。
こんにちは、と愛想笑いを覚えた俺が笑いかけると、彼女はさあっと顔を青くする。
「いや…その笑顔! やめてちょうだい…不気味なの」
…だめか、と内心予測していた結果だったがさすがにダメージを受ける。
なぜ、笑いかけるだけで恐れられなければいけないんだろう。
謝って立ち去ったあとも、梢恵伯母様の何かをぶつぶつつぶやく声が大きく聞こえていた。
─「人形のくせに」だとか「鬼を生んだ子」だとか、理解に及ばない言葉だった気がする。
・ ・ ・
「婆様。伯母様は一体どうなさってしまったんですか」
「……気にすることはありません。貴方は今まで通り生活すればよいのです」
今まで通り。
今まで通り、部屋で餌が運ばれてくるのを待って、休みの日は引きこもって、日が出ている間は修行に勤しむ?
別にそれでも良い。何不自由していない。友達もいる。
だけど気がかりなのは伯母のことだ。
「心を…病まれてしまったのでしょうか。俺の、せいで」
「貴方まで何を言い出すんです。縁起でもない」
「…すみません」
明らかに怒気を含んだ言い方に委縮して頭を下げた。
「あれは弱かったのです。元より妖の見えぬ普通の子。…それでもあの子なりに、この世界のことを理解しようと努めました。しかし結果は奮わず…」
伯母の気持ちを考えた。
名のある祓い屋の家系に生まれながら、妖を視る目を持たない。できる弟と戦えない姉。
自分の無力さが歯がゆかったのか─もしくは俺への嫉妬心に似た何かを抱いているのか。