はらり、ひとひら。


「どうしてそんな」

「…厄災が、目覚めると」

「!」


脳裏にやきついていたあの文字。呼ぶことすら恐れられる忌み名。


「灯雅は知っているよね? 千年前の二人の鬼の話」

「…当たり前さ。有名な話だ。あぁ、名を言うんじゃないよ。忌み名だ」


こくんと頷き言葉を選びつつ慎重に話した。


「この際だから灯雅には言っておく。きっと、遅かれ早かれ鬼は目覚める。どうも封印の力が弱まっているらしいんだ」


「な…! それは…大変なことになるね。あれほどの大妖─いや、神同士の戦いに巻き込まれでもしたら人は」


灯雅ははっとしたように口を噤む。…そう。そうなんだよ。


「まさかあの子は─」

「椎名さんは予言では、人身御供になることを選ぶ」


灯雅が絶句した。人身御供(ひとみごくう)。あるいは人柱。古くから争いを鎮めるために差し出された人の身、生贄。


「あんた、このままじゃだめだ。絶対に未来を変えるんだよ。…あの子の命、みすみす渡していい代物じゃない」

「わかってる。方法はあるかわからないけど─椎名さんだけは、救って見せる」


─いつだって世界は不条理だ。

どうして勝手に奪うのか。彼女の愛する平穏を、勝手に壊すことは許さない。


< 823 / 1,020 >

この作品をシェア

pagetop