はらり、ひとひら。
「どうしてそんな」
「…厄災が、目覚めると」
「!」
脳裏にやきついていたあの文字。呼ぶことすら恐れられる忌み名。
「灯雅は知っているよね? 千年前の二人の鬼の話」
「…当たり前さ。有名な話だ。あぁ、名を言うんじゃないよ。忌み名だ」
こくんと頷き言葉を選びつつ慎重に話した。
「この際だから灯雅には言っておく。きっと、遅かれ早かれ鬼は目覚める。どうも封印の力が弱まっているらしいんだ」
「な…! それは…大変なことになるね。あれほどの大妖─いや、神同士の戦いに巻き込まれでもしたら人は」
灯雅ははっとしたように口を噤む。…そう。そうなんだよ。
「まさかあの子は─」
「椎名さんは予言では、人身御供になることを選ぶ」
灯雅が絶句した。人身御供(ひとみごくう)。あるいは人柱。古くから争いを鎮めるために差し出された人の身、生贄。
「あんた、このままじゃだめだ。絶対に未来を変えるんだよ。…あの子の命、みすみす渡していい代物じゃない」
「わかってる。方法はあるかわからないけど─椎名さんだけは、救って見せる」
─いつだって世界は不条理だ。
どうして勝手に奪うのか。彼女の愛する平穏を、勝手に壊すことは許さない。