はらり、ひとひら。
・ ・ ・
side-真澄
「…以上が、今回の視察で得られた情報。何か質問がある方は、挙手をお願いします」
何度会合を重ねても、やはり人前で話すのは慣れないし緊張する。一息ついて、湯呑のお茶をすべて飲みした。
ちらりと視界の端で手があがったのが見え、促すと千鶴兄さんは立ち上がった。
「封印が弱まってることはよくわかった。ます…14代目の意思もわかった。もちろん意向には従う」
真澄、と言いかけて14代目と言い直した千鶴は俺の目をきつく見据えたまま言い放つ。
「俺が気になってるのはその『半妖』の存在だ」
…やっぱり、疑問はそこに行きつくか。
想定してはいたが、いざ問われると返答に困ってしまう。
俺も、今朝緋賀さんに聞いたばかりだったので持っている情報もたかが知れているのだけど。
「…『平坂』の血をひく半妖の話はみなさん、ご存知ですね?」
押し黙った面々が頷いたのを視認し、言葉を選びながら口を動かす。
「『平坂家』の存続は現在では確認されていませんでした。…約百年前に生まれた半妖も、ただの噂でしかありませんし、確かにそれを目でみた者もいない。ここ数百年、『平坂家』は亡きものとされてきましたが…」
それは誤った認識だった。
平坂家の末裔は生きている。
そう伝えた途端に部屋中の大人たちがざわつき始め、くちぐちに好き勝手なことを言い始める。
『証拠を出せ』『適当なことを申すでない』『今すぐ滅せねば大ごとになる』『危険因子は排除せよ』
ああ…うるさい。心の声は実際口に出ていたかわからないけど。
きぃんと耳鳴りがして無数の声はまた、蝕んだ。暗闇に、顔のない神崎の分家の面々が浮かび上がる感覚。
目を開けても閉じても闇。
─またこれだ。
昔からある、世界に取り残された感覚。立っているのは俺ただひとりで、誰もいない。
底なしで天井もどこにあるのかわからない。
そんな場所でまた俺は蹲っていた。
白昼夢か。はたまた只の稚拙な自己防衛か─
声は鳴りやまない。
黙ってくれ。わかっている。殺さなければ。危険だから。だけど罪はない。許されて然るべきだ。殺してはいけない。けれど宿敵だ。殺めてはいけない。殺めてはいけない。
「本当に?」
はっとした。
薄暗い闇のなかで浮かび上がった顔は、ぞっとするほど返り血を浴びた自分自身。
斬ってしまえ斬ってしまえ斬ってしまえ、殺してしまえ─
「お前がみんなを、鬼にしたくせに」
「─やめろ!!!!」
荒げた声はざわついた広間に存外響いた。