はらり、ひとひら。
驚いて皆が俺を見ている。
水を打ったように静まり返り、それまで吠えていた大人たちは咳払をして佇まいを直した。
「…お静かに願います」
姿勢を直し、俯いた。どうもいけない。最近、弱くなった。
今までこんな風に心をかき乱されることは滅多になかったのに。「人らしくなった」と灯雅は言っていたけど心が、感情がこんなにも面倒なものだなんて。
もちろん元々心が備わっていなかったわけではない。ただ忘れていただけなんだ。
それを思い出したんだろう。あの子の、お陰か。いや…あの子のせいと言ったほうが適切か。
いつしか朝比奈にも笑われたっけ。「お前、杏ちゃんのことになると別人みたいにわかりやすいな」って。
面倒くさいな。少し恨みがましい気持ちになるが、それでも愛しいことに変わりはない。
必要ないと思っていた心。ただひたすらに妖を斬って、この町、家を守って生き、死ぬだけの自分の決められた単調な生涯。
知らなかった。彼女と、椎名さんと出会うまでは。
椎名さんはいつだって俺の世界に色を付けてくれる。
目を閉じればすぐ浮かぶ、長い髪の匂いも弾む声も、咲いたばかりの花のような笑顔も。
「失うわけには、いかないんだ」
だからこそ。
「すべてを終わらせなくてはなりません。父が生前成せなかったことを、俺は遂行します。終局の見えない争いを今代こそは、根本から断つ」
もうこれ以上長引かせない。
自分たちの未来を血で汚さないため。未来の子供たちを泣かせないため。
「神崎、椎名、平坂、麻上(あさがみ)。四家の末裔がすべて生きているとわかった以上、未来は先見書を辿ることになる」
こればかりは避けられない運命だ。
だけど辿る道はそうでも、辿りつく最後の場所が…先見書と違ったなら?
「麻上と平坂の思い通りにはさせない。誰も殺めない、誰も憎まない。─そして、誰も置き去りにしない。…これが俺の、望む戦い方です」
甘いことを言っているとは、わかっている。始めからそれができていればとうに四家の争いは終わっていた。でも心に決めた以上、犠牲は出したくないのだ。例えその血が、仇敵のものであったとしても。
誰の血も涙も流させない。
「…14代目らしいお言葉だ」
誰かがぽつりと呟いたのを皮切りに、拍手が鳴り渡る。
予想に反して誰一人として反論するものはおらず、みな俺の言葉に毒気を抜かれたようだった。
これでよかったのだろうか。なんとなく不安になって視線を移すと千鶴兄さんがグッジョブ! と小声で言いながらウインクしたので、少し笑って緊張の糸が解けていく。…あぁ、よかった。
「では…以上をもちまして、本日の会合は終了とさせて頂きます」
ゆったりした婆様の声を皮切りに、大人たちはぞろぞろと広間から出て行った。