[完]大人の恋の始め方
信じられない気持ちで一杯になった。
不良から助けてくれた、心優しい優斗さんは、全部演技だったの…?
行き場をなくした気持ちが溢れて、涙として出て来た。
「………うっ…ふぇ…」
自分の嗚咽が、更に涙を誘う。
こんな時、あたしの頭には、昔の記憶が蘇る。
泣いたら、「重い女」って言われる。
きっと、こんなあたしを見て、優斗さんもそう感じてしまうのかな?
それとも、家を追い出されるのかな…?
それとも……暴力?
そんな想像が、頭の中をグルグル回る。
あたしは"あの日"から、男の人に恐怖心を抱いた。
怖くて怖くて仕方ない。
なのに、優斗さんは平気だった。
凄く優しい人だったからだと思う。
だから、忘れてたんだ。
だけど、今目の前にいるのは、優斗さんであって、あたしが恐怖心を抱く"男の人"だった。
涙は止まらず、身体は、冷えからなのか、それとも恐怖からなのか、小刻みに奮えている。
こんなあたしを、優斗さんはどう受け止めるのだろうか?
嘲笑う…?
馬鹿にする…?
怒る…?
あたしは、優斗さんが微かに動いたのを感知して、目を固くつぶった。
しかし、あたしが感じたのは、身体を包む温かさだった。