さらば、ヒャッハー


「その時ののづっちは神様と見られなくなっていたのに、彼だけは違ったわ。徳の高い僧たる彼は、のづっちに祠を作ってくれて、毎日のようにお神酒を供えてくれたわ。時には銀細工のかんざしだって。

とても、ええ、とても素敵な男性だったわ。手を合わせたあとに、にっこりと微笑む顔。のづっちはいつもその顔を見る度に、例え心ない人間たちに妖怪と見られようとも、神様として汚れない心を持とうと決めたのよ。

清く美しいのづっちが今もあり続けるのは彼のおかげ。そんな彼に、健やかなる毎日をと恩を返したわ。でも、でもね……、やっぱり、のづっちはこの想いを伝えたかった。

だというのに、のづっちは『ありがとう』さえ伝えられない。伝わらないのよ。――そう、彼は人間。人間と妖怪が結ばれるなんてないわ。けど、彼は毎日来てくれた。あの祠に、見えないのづっちに笑顔を見せに。あの祠はね、彼とのづっちが会える場所。

彼はのづっちが見えなくとも、のづっちが言えない思いで身を焦がしても、それでも、あの場所は大切な場所なの。彼はもう来なく……来れなくなっちゃったけど、のづっちの心にはまだ刻まれているわ。あの日だまりよりも温かい、彼の笑顔が」


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