さらば、ヒャッハー
黒く丸まった人間大のモノ。身を丸めて座っているにしろ、黒布を頭から被った異質には違いない。
秋月が思わず、刀の柄を握ろうとしたが、ふと感じた。
――人間だ。
日頃、妖怪を見慣れているから、この異質もまたそうだと早とちりしたが、よくよく勘ぐってみれば、人間の息づかいを感じられる。
細く、弱く。冬眠中の呼吸にしても、秋月には人間に見えた。
「わたるんはん……」
「気にしないでください。ただ、すれ違う時に会釈ぐらいしてくれると嬉しいです」
秋月が言わんとしていることを受け取った渉。普通な受け答えから、あれは人間だと補足もしているようだが――では、なぜこんなところに?
季節で言えば、春になる前の夜。冷気が流れやすい山の中で、微動だにせずに座り続けていることがおかしく思えた。