美味しい時間

昼に寺澤と別れた後、メールをもらっていた。


『仕事が終わったら、1階の自販機の所で待ってて』


正直、正面玄関の近くで待っているのは避けたかった。自販機の前だと、
帰ってくる課長と鉢合わせしてしまうかもしれない。
でも同期の寺澤と飲むだけ。悪いことをしているわけでもないから、コソコソ
しているのもおかしいし……。

結局、寺澤の言うとおり、自販機の前で待っていた。

何もしないでただ立っているのも落ち着かない。携帯を取り出そうとカバンの
中をゴソゴソと探っていると、大きな声で私を呼ぶ声がした。

「藤野、お待たせっ」

満面の笑みで私に近づいてくる。
急いで来たのか、肩でハァハァと息をしていた。

「仕事、本当に大丈夫だったの? 私に合わせて無理してない?」

寺澤の所属している営業部は、定時に帰れることはゼロと言ってもいいほど
忙しい部署だ。以前寺澤も、「俺こんなに働いてたら死ぬかも」なんて、
冗談か本気か分からない愚痴を言っていた。

「大丈夫。ひとつ大口の契約を取ったからさ。課長、機嫌良くてさぁ」

私の肩をポンポンと軽く叩き「気にするな」と微笑むと、正面玄関に向かって
歩き出した。
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