美味しい時間

どこをどうやって走ってきたのか覚えていないけれど、気づいたら駅近くの
公園まで来ていた。
両膝に手をついて乱れた息を整えていると、同じように息を乱して寺澤が
走ってきた。

「はぁ……はぁ……。藤野……足、速すぎ……」

そう言うと、公園の芝生の上に仰向けで倒れこんだ。まだ、はぁはぁと
大きく息をしている。
その姿を見ていると、急におかしくなってきた。

「ごめん、寺澤くん。私学生時代、陸上部だったんだ」

笑いながら寺澤の近くに行く。

「どうりで速いわけだ」

少し落ち着いてきたのか、寺澤が目を開けた。
私が右手を差し出すと、ニコッと笑ってからその手を掴む。グッと力を入れて
寺澤を引っ張り起こした。

「女に起こしてもらうなんて……。俺、かっこ悪くね? で、どうして
 あの場から走りだしたのか、理由教えてくれる?」

身体に付いた芝を払いながら、明らかにさっきまでとは違う口調でそう言い、
真剣な顔をして私に近づいてきた。


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