美味しい時間

「ごめん、寺澤くん。今日は帰る」

「何で? 怒ったの?」

怒らせたのはそっちでしょっ! と言いたいのを一歩手前でグッと堪え、
笑顔を作ると寺澤に向き直った。

「話聞いてくれて、ありがとう。食事はまた今度。じゃあね」

そう言って歩き出そうとしたら、いきなり左手を取られ、そのまま彼の腕に
抱きすくめられてしまった。
あまりに突然のことで、何が起こったのかすぐには理解できず呆然として
いると、寺澤の真剣な声が聞こえてきた。

「藤野、悪い。こんな時に卑怯かもしれないけど、俺……お前のことが
 好きなんだ。今すぐ返事くれとは言わない。俺、正々堂々と課長と戦うって
 決めたからさっ」

それだけ言うと、抱きしめている腕の力を緩めた。慌てて寺澤から離れる。

(寺澤くんが、私を好き?)

全く思ってもなかったことを言われて、ただ俯くことしかできなかった。

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