美味しい時間
寺澤の気迫に負けたのか、課長は何も話さない。二人の間には、重たい空気
だけが流れていた。
かと言って、いつまでもここで立っているわけにもいかず、思い切って声を
かけた。
「あ、あの課長? 良かったら部屋に行きませんか?」
「当たり前だ、行くに決まってるだろう」
偉そうにそう言うと、私の腕を痛いぐらいに掴んで、引っ張りだした。
「い、痛いです、課長。それに、何で課長が怒ってるんですか?」
「はぁ!? 俺が怒ってる? 怒ってないっ!」
怒ってるじゃんっ!! 喉まで出かかった言葉をぐっと堪えた。また黙って
引っ張りだす。
玄関に着くと、掴んでいない方の手を差し出した。
それがどういう意味かわからず手を見つめていたら、頭を小突かれた。
「鍵っ!」
慌ててカバンから鍵を取り出し、課長に渡した。