美味しい時間

「私にだって、いろいろと言えない事情があるんですっ!!」

勢いに任せて、大きな声を上げてしまった。
それでも怒りが収まらず、手に握りこぶしを握って身体を震わせていると、
久しぶりに聞く課長の優しい声が、私の震えを止めた。

「やっぱり……俺のせいだよな」

何も言えなくなってしまった。
課長の声に、苦悩の色がにじみ出ていたから……。

課長と見つめ合っていたことに気づき顔を逸らす。すると間髪をいれずに
顔を元の向きに戻されてしまった。
その手は、まだ頬に当てられたままだ。
ダメだとわかっているのに、鼓動が早くなるのを押えられずにいた。

「会社を辞めて、どうする」

「じ、実家に帰ろうかと……」

ゆっくりと、頬から手が離れていく。それでも胸のドキドキは、激しいまま
だった。
そこで会話が途切れ、しばらく無言が続くと、課長が小さく息を吐いた。

「……分かった。これは保留として預かっておく。まだ途中の仕事もあるだ
 ろう。それのキリがついたらもう一度話し合おう」




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