美味しい時間

「それに……。会社辞めて、実家に帰ろうと思って」

俯き気味にそう言うと、寺澤がテーブルに手をついて大きな音を立てた。

「なんでっ! その話、課長は知ってるのっ?」

すごい剣幕で食ってかかる彼を、慌てて抑える。

「て、寺澤くん、声が大きいよ。ちょっと落ち着いて」

そう言って、中腰で立っていた彼をイスに座らせた。
どうしたもんかと考えていると、奥さんが注文したランチセットを運んできて
くれた。

「寺澤さん、ちょっとお声が大きかったみたいですね。これを食べて、ちょっと
 気を静めたらどうですか?」

奥さんの優しい話しかけに、自分の今の状態に気づいた寺澤が、小さく頭を
下げた。

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