美味しい時間
あまりの美味しさにゆっくりと味わっていると、寺澤が突然慌てだした。
「藤野っ。ゆっくりし過ぎた。悪い、俺先に戻るわ」
自分の分のお金をテーブルに置くと、あいさつも適当に店を飛び出していった。
呆気にとられ目をパチパチしている私のそばに、奥さんが近寄ってきた。
「寺澤さん、あなたを置いて行っちゃうなんて、ひどい人」
そういう割には、顔は穏やかに微笑んでいた。
「彼、営業だから。それに……」
その後の言葉を言おうとしたら、奥さんに制された。
それがどうしてか分からず首を小さく傾げると、さっきまでの笑顔は消え、
少し申し訳ないような顔をした。
「ごめんなさいね。寺澤さん、彼氏じゃなかのね」
「あぁ……。全然気にしないで下さい」
笑って答えると、奥さんにも笑顔が戻った。
すると、カウンターの奥から旦那さんの声が聞こえてきた。
「うちの奥さんが悪かったね。すぐ人の話に首を突っ込みたがるから」
「だって……」
唇を尖らせて不服そうな顔をする奥さんは可愛い。
きっと彼女は素直なんだろう。
そんな奥さんを、旦那さんは大好きなんだと、顔を見ていれば分かる。