美味しい時間

二人の姿を微笑ましく見ていると、壁にかけてある時計が目に入った。

「あっ! もうこんな時間っ」

うちの会社は、昼休みの時間が決まっているわけではない。でも今日は、
会社を出るときに課長に会ってしまっている。きっと叱られるだろう……。

「あんまりにも居心地が良いから、長居しちゃいました」

今さら急いでも遅い。小さく溜息をつくと席を立ちレジに向かった。
心配そうな顔をしている奥さんと目が合う。

「大丈夫?」

「はいっ」

元気にそう答えると、奥さんも安心したのか、また柔らかい笑顔を向けて
くれた。

「えっと、お名前伺ってもいいかしら?」

「あっ、藤野百花と言います」

「百花さん……。あなたにピッタリのお名前ね」

初めてそんな事を言われ、嬉しいやら照れくさいやらで、顔を赤く染めてし
まった。

「また来て下さいね」

その言葉に大きく頷くと、店を後にした。
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