美味しい時間
フロアの入り口まで来ると、美和先輩が手を離した。ゆっくりと振り返ると、
真剣な面持ちで私を見つめた。
「いい? 覚悟して入りなよ」
そう言い残すと、先に入っていってしまった。
何に覚悟すればいいんだろう? 課長に怒られることかなぁ……。そんな事を
考えながらフロアに入る。
俯き加減で誰とも目が合わないように歩き出した。
すると課長の席の方から、聞きたくない甲高い声が聞こえてきた。
見たくもないと思っているのに、勝手に目が動いてしまう。
案の定、課長の席の横を陣取り、身体を擦り寄せている倉橋さんの姿が目に
入ってきた。
同時に、こちらを見ていた課長と目が合い、咄嗟に目線を逸らしてしまった。
そのまま小さく会釈をして課長の前を通り過ぎようとしたら、倉橋さんに
呼び止められた。
「藤野さん、戻って来るのが遅くないかしら?」
なんでアンタにそんなこと言われなくちゃいけないのっ!!
心の中ではそう叫んでみたものの、表面的には平静を装って彼女の方を振り
返った。
「すみませんでした」
彼女に謝ってどうするのっ!?
自分で自分にツッコミを入れてみる。我ながらアホだ。情けなくなってきた。