美味しい時間
涙が出そうになるのを堪え、もう一度頭を下げると、今度は課長が声をかけ
てきた。
「藤野。これ今日中に終わらせて」
やはり怒っているのか、普段よりも幾分低いトーンで言われ、身体に緊張が
走る。トントンと書類を整えると、こちらを見ないままそれを渡された。
その態度に悲しくなってしまい、聞き取れないほどの声で「はい……」と
答えると、書類を胸に抱きしめて自分のデスクに急いだ。
席に着くと、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸した。それから、目の
前に座っている美和先輩を覗き見ると、いつからこちらを見ていたのかニヤニ
ヤ笑っている。
「先輩、やっぱり趣味悪い……」
口を尖らせ文句を言うと、さっきにも増して顔をニヤつかせた。
「そんな怒らないの。可愛い顔が台無し」
「…………」
「それにしても、あれってどうよ」
顔は動かさず、目線だけを動かして課長たちの方を見た。私も同じように目線を
移動させる。
「百花がお昼に出ていってから、ずっとあんな調子。いくら専務の姪っ子だか
らってねぇ」
呆れたようにそう言って仕事に戻る美和先輩とは違い、課長たちから目が離せ
なくなってしまっている自分がいた。