美味しい時間

倉橋さんが専務の姪っ子だと、つい最近知った。あの強気の態度の意味が、
何となく分かった気がする。そんな彼女がお見合い相手じゃ、課長も断れる
はずがない。
課長の隣に座り、時々私の方を見て、勝ち誇った顔をする。
もう別れてしまったのだから、そんな事を気にしてもしかたがないことなのに、
万が一の望みもないことを痛感して、かなり落ち込んだ。

やっぱり、目の前で二人の姿を見るのは辛い……辛すぎる。

課長が次から次へと細かい仕事を押し付けてくるから、本来やらなければいけ
ない仕事がなかなか進まない。出来れば一日でも早く、会社を辞める話を進め
たいのに……。

しかし、さっき渡された仕事は定時に終わりそうになかった。このままでは
久しぶりの残業は決定的だ。
重い気持ちで溜息をつくと、美和先輩がポイっと何かを投げてきた。

「チョコレート?」

「それでも食べて、気持ち落ち着けたら?」

「はぁ……ありがとうございます。ねぇ、美和先輩。これ手伝ってくれ……」

「無理っ!」

「ですよね~」

もう一度大きく溜息をつくと、渋々仕事を再開させた。
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