美味しい時間
「は、はい。私でできることでしたらやっておきますけど……」
上司でもない彼女にそう返事をすると、満足そうな笑い声が聞こえた。
自分の仕事さえまだ終わっていないのにそう言ってしまったことを少し後悔
しながら、書類に目を戻す。
しかし課長がどんな反応をするのか、内心はひどく落ち着かないでいた。
仕事をしながらも意識だけは課長に向けていると、徐に口を開いた。
「いや、この仕事は俺がチェックしなきゃいけない仕事だから……。それに、
倉橋には明日会えるだろう」
……倉橋には明日会える……
その言葉に脳内が一瞬で真っ白になり、身体中の機能が停止してしまった。
瞬きすることさえできなくなっていると、倉橋さんが勝ち誇ったような上気した
顔で課長に近づいた。
「そ、そうね。明日の準備もあるし、これからはずっと一緒に過ごせるもの。
今日は先に帰ることにするわ」
そう言って課長の肩にそっと手を乗せると、頬に口づけをするかのようにゆっ
くりと顔を近づけていった。それを課長が素早く制する。
「ここは会社だ」
課長の冷ややかな声にやり過ぎたと思ったのか、倉橋さんの顔が引き攣って
いる。