美味しい時間

そして私の方に向き直ると、大きく頭を下げる。

「百花、本当にごめんっ。まさかお見合いが、あのホテルだったなんて……」

元気で強気な先輩からは想像もつかないような、今にも泣きだしてしまいそうな
声が聞こえてきた。そして下げた頭を一向に上げようとしなかった。その姿に、
こっちの方が驚いてしまい、慌てて先輩に近寄った。

「な、何言っちゃってるんですかっ!? あそこでお見合いだって、先輩も知らな
 かったわけだし……。全然悪くないんだから、謝らないでください」

肩を揺さぶって顔を上げるように促すと、申し訳なさそうにゆっくりと顔を上げ
てくれた。少しホッとすると、先輩に笑顔を向ける。

「美和先輩。倉橋さんにいろいろ言ってくれて、ありがとうございました。課長
 の顔を見て、ちょっとは胸が痛んだけど、もう大丈夫。これで本当にいろんな
 ことが吹っ切れたような気がします」

作り笑顔ではなく、本当の笑みをたたえていたのが伝わったのか、美和先輩の
顔も徐々にいつもの通りに戻っていった。肩をガバっと抱きかかえると、大股で
歩き出す。

「よーしっ! 今日は二人で買い物しまくるぞっ!!」

「はいっ!」

なんやかんや言っても、いつも気を使って元気をくれる先輩に大きな声で返事
をし、私も笑顔で歩き出した。
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