美味しい時間
彼の背中を見ながら、前にもこんなやりとりをしたことを思い出した。
早く自分の気持にケリを付けないと、いつもでたっても回りにいる人たちに
迷惑をかけてしまうと分かっているんだけど……。
朝から何度目かの溜息をついて、私もフロアへと向かった。
いつものようにまっすぐフロアに向かい入り口の近くまで行くと、違和感に
包まれた。その違和感に小首を傾げる。
「今日はやけに静かだよね」
朝から忙しい部署も入っているからか、フロアの中からはいつも賑やかな声が
聞こえていた。しかし今朝は、物音一つしないほどの静けさだった。不審に思
いながら入り口に手を当てそっと中を覗き込んだ。
そっと覗き込んだつもりだったのに、入り口に手を当てた時にギギッと音を
たててしまったため、中にいた人たちの視線を一斉に浴びてしまった。
その光景に一瞬怯むも、その視線に哀れみが含まれていることに気づく。
「お、おはようございます……」
哀れみの視線の意味が全く分からないまま腰を屈めて挨拶をし目線を上げると、
明らかに怒りを露わにしてこちらを睨んでいる人がいた。
「倉橋さん?」
睨まれる覚えはないんだけどなぁ……。なんて呑気に考えていたら、彼女が
ツカツカと大股で私に近づいてきた。