美味しい時間

そして私の眼の前に立ちはだかったと思ったその直後……。

パーンっと、フロア中に響き渡るほどの大きな音が鳴り響いた。
一瞬何が起こったのか分からなかったけれど、すぐに頬に激痛が襲ってきて、
彼女に平手で打たれたのだと気づいた。しかしそれに気づいた時には、もう
片方の頬をさっきよりも強い力で打たれている最中だった。

「この泥棒猫っ!!!]

両頬を手でおさえ痛みに耐えていると、倉橋さんから罵声を浴びさせられた。

(なんで私が泥棒猫呼ばわりされなくちゃいけないのよっ!)

大きな声で反論したくても、頬が痛くて口が開けない。何となく口の中に
血の味が広がっているような気もする。
痛いやら情けないやらで、涙が出てきてしまった。

(泣きたくなんかないのに……)

そう思えば思うほど、涙は溢れでてきてしまう。
俯いてじっと耐えていると、またも倉橋さんが大声を上げた。

「泣けばいいと思って! 性悪女っ!!」

またも振り上げて私の頬を打とうとしたその手を、後ろにいた誰かがバシッと
掴んだ。
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