美味しい時間

「ごちそうさま。やっぱ百花の作った料理は旨いな」

「あ、ありがとう」

美味しいって言ってもらうのは嬉しいけど、こうやって面と向かって言われると
ちょっと照れくさい。
でもまた課長のために腕をふるうことができるのは、正直嬉しかった。
好きな人のために作って、好きな人と一緒に食べる。やっぱりこれは、至福の時
間だ。自然と顔に笑みがこぼれた。

食事の後片付けも終わり、少し疲れた身体を伸ばしながらリビングに向かうと、
ソファーに腰掛け雑誌を読んでいる課長が目に入った。珍しくメガネをかけてい
る。その姿に見惚れて立ち尽くしていると、そんな私に課長が気づいた。

「おいで」

自分の隣をポンポンと叩き、ここに座れと促す。その通りに横に腰掛けると、ふ
わっと肩を抱かれた。甘えるように身を預けると、ふと安心感に包まれた。

「片付けは全部済んだ?」

「うん」

「本当に手伝わなくて良かったのか?」

「知ってる? 料理って片付けが終わるまでが料理なんだよ。な~んて、これも
 母の受け売りなんだけど」

「へぇ~、そうなんだ」

感心したように見つめる目。
でもその奥に、何か違うことを考えている揺らめきを見つけた。

「慶太郎さん、何か話があるんじゃないの?」

眉がぴくっと動くと、観念したように苦笑を漏らす。

「百花には敵わないな」

肩を抱いている手に力が込められ、真剣な眼差しを私に向けた。
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