美味しい時間
「今回の件では、いろいろ悪かった」
「ううん……。慶太郎さんも大変だったんだし、もう気にしないで」
「けどな、少しの間離れてて、俺にとってお前がどれだけ大切か痛感したよ」
「うん」
それは私も同じ。
課長のためと自分から別れを告げておきながら、なかなか諦めがつかず、それ
どころか前にも増して好きになっていった。
課長が同じ気持ちでいてくれたことが、素直に嬉しい。そして私ももう、課長
なしではいられそうになかった。
「ここからはちょっと真面目な話」
抱いていた手をゆっくり離すと、私に向き直る。
その真剣な顔つきに不安を感じながらも、きちんと座り直して課長を見つめ返
した。
「またこうやって一緒にいることができるようになった」
コクンと頷く。
「でも俺は、今度の人事異動で大阪に行く事になる」
「あ……」
そうだった。今朝舞い戻った幸せに、そのことをすっかり忘れてしまっていた。
突然突きつけられた現実に言葉が出ない。その代わりに、瞳に涙が溜まってきて
しまった。瞬きをすれば、今にも溢れてしまいそうだ。
「泣かせるつもりじゃなかったんだけどな」
申し訳なさそうに微笑むと、私の髪を一束掴んで弄び、小さく呟いた。
「なぁ……。一緒に大阪に来ないか?」