美味しい時間

「はぁ……また泣く。間違ったこと言ってないだろ。もっと自信持てよ」

「だって……」

「それとも、やっぱり俺のことが信用できないとか?」

「そ、そうじゃないっ」

「だったら……」

また何かを言おうとした課長の言葉を遮る。

「慶太郎さん顔が怖いし、何も言ってくれないんだもん」

そんな態度を取られたら、不安になって自信もなくなっちゃうよ。
課長のバカっ!!

「顔が怖いって……」

「……」

「機嫌直せよ。別に何も言わなかったわけじゃない。お前の話をちゃんと聞いて
 いろいろ考えてたんだ。で、気づかないうちに顔も怖くなってたんだな。ごめ
 ん、悪かった」

スポンっと課長の胸に抱きしめられる。右手で頭を撫でられると、またすぐに
安心感が戻ってきた。
私も現金なものだよね。
たったそれだけのことで、『課長のバカッ!!』なんて思っていた気持ちが、どこ
かへ行ってしまうんだから……。

「百花の気持は良く分かった。そうだよな、俺の元で今まで頑張ってきて、もう
 少しでステップアップできるところまで来てるもんな。そんなお前を、俺の勝
 手で連れて行くわけにはいかないよな」

淋しそうに溜息をついたのが、身体から伝わってきた。

「そ、それって……結婚の話、無しに……」

急激に鼓動が速くなる。心臓が押しつぶされてしまいそうなくらい、ぎゅっと
痛み出す。
これって結婚どころか、付き合いも解消になっちゃうとか?
そんなの嫌だっ!!
いまさら遅いのに、自分の言ったことを後悔する。
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