美味しい時間


「待ってろ」と言われて律儀に待ってる私って……。
ベッドに軽く腰掛けていた身体をそのまま横に倒し寝転ぶ。
と同時に、バスルームの扉の開く音がした。
反射的に身体を起こすと、ベッドの上に正座をする。この後のことを想像すると
落ち着かない。シーツの皺を伸ばしたり、枕の位置を移動させたりしていたら、
突然耳に笑い声が飛び込んできた。驚いて振り向くと、部屋の入口にもたれかか
りながら、タオルで髪を乾かしている課長がいた。

「待たせて悪かったな」

「ま、待ってないし……」

「ふ~ん、そうなんだ」

私の心の中なんかお見通しとばかりな、その態度が癪に障る。
フンッと横を向き知らんぷりを決め込むと、ゆっくり足音が近づいてきた。
ギシッとベッドの軋む音がする。
腰のあたりに手が触れると、後ろ向きに抱き寄せられた。
そのまま二人して、ベッドに倒れ込む。

「ちょっとからかい過ぎたか」

「えっ?」

「今日はもう、何もしないよ」

「そ、そうなんだ……」

「何? 期待してたとか?」

「してませんっ」

背中越しに、課長が笑っているのが伝わってくる。
そりゃあ、ちょっとは期待……してたけど。
いわゆる、拍子抜けした感じだ。
気付かれないように溜息をつき、課長の腕の中で小さくなる。

「これでも百花の身体を心配して、いろいろ我慢してるんだけど?」

腰の前でクロスされていた手が、ゆっくりと上がって胸の膨らみを包み込んだ。

「ばか……」

「好きな女の前だと、男は馬鹿になるっつうの」

好きな女……。その言葉に心が震える。
胸から手を離し、向かい合う状態に身体を反転させられた。
優しく私を見つめる目に、吸い込まれそうになる。


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