美味しい時間

次の日の朝、目覚まし時計に起こされるよりも早く、目が覚めた。それも、身体
を締め付けられる悪夢にうなされて……。
あ、あれ? 目が覚めたっていうのに、身体の自由が効かないって、どういうこ
とっ!?
そんな疑問も、ちゃんと目覚めていなかった脳が少しずつ覚醒し始めると、今の
状況がはっきりとしてきた。
上半身は寝る前と同じ、課長の腕に抱かれたまま。ずっとこの体勢だったのかと
感心してしまうくらいに……。
しかし下半身はというと……。
まるでプロレスの技をかけられているかのように、ガッチリと両足をホールドさ
れていた。って言うか、これじゃあまるで人間抱き枕状態だよぉ、私……。
少しでも身体を動かせば、小さい子供が抱いたぬいぐるみを必死に離さないのと
同じように、全身で戒めを強めてくる。
ま、参ったなぁ、これは……。
諦めにも似た、苦笑が漏れてしまった。

「うん……」

あっ、起こしちゃったかな。
首を少しひねって何とか確認できた今の時刻は、5時50分。
目覚まし時計は6時にセットしてある。ベルを鳴らすまで、あと10分。
今さらもう一度寝てもねぇ……。
少し早いけど、課長を起こすことにした。
何とか頑張って右腕を動かすのに成功すると、課長の頬を数回つつく。

「慶太郎さん、朝だよ。起きて」

「う~ん……」

起きないつもりなのか、首を振る仕草をする。
それならと、今度は頬を軽く抓った。

< 290 / 314 >

この作品をシェア

pagetop