美味しい時間
でもそれも、すぐに二階までやってきた課長にデコピンされて、ジ・エンド。
「お前、余裕あんのな」
そう一言残して、さっさとフロアに入っていってしまった。
「み、美和せんぱ~い……」
「課長に張り合おうなんて一万年早いんじゃないの?」
「一万年って……。永遠に無理じゃん」
「はははっ。さっ、行くよ」
先輩の力強い言葉に頷くと、意を決してフロアの中に突入する。
小さな声でたった一言、「おはようございます」と発しただけなのに、案の定、
フロア中の視線が集まってしまった。
うぅ……。想像以上にすごいんだけど……。
思わぬ状況に美和先輩にしがみつくと、数人の足音が近づいてきた。
「藤野さん、おめでとう」
後ろからかけられた声に振り向くと、倉橋さんの取り巻き……いわゆる、課長
ファンのお姉様達だった。
彼女達が来ることは、想定していた。
当然、辛い言葉を浴びせられると覚悟していただけに、「おめでとう」と言われ
てしまい、調子が狂ってしまう。
まぁ、腹の中まで見えるわけじゃないし、その言葉の中にどれだけ本心が入って
いるかは分からないけれど……。
でもここは、素直にお礼を言っておくべきだよね?
「あ、ありがとうございます」
少し引きつった笑顔でそう言うと、美和先輩を押して歩き出した。
ここに長居は無用だ。早いとこ撤退撤退!
まだ何か言いたそうなお姉様たちに頭を下げ、デスクにと向かう。
その途中も、あっちこっちから「おめでとう」とか「よかったね」などと声が
かけられる度に、ペコリペコリと頭を下げた。
そりゃね、昨日バレちゃった通り課長と付き合ってるよ。今すぐは一緒に大阪に
行けないけど、プロポーズもしてもらったよ。
でもまだ結婚が決まったわけじゃないし、そんなお祝いムードにならなくても
いいと思うんだけど……。
ため息混じりに、この状況の原因を作った張本人を見てみれば……。
デスクに向かって仕事してる?
守ってくれるって言ってたのに……。