美味しい時間

「お待たせ致しました」

テーブルの縁にトレーを置くと丁寧に箱を開け、私たちの前へと差し出した。

「どうぞ、ご覧ください」

思っていた通り、目の前の現れたのは指輪だった。
見事なまでに完璧なハート型にカットされたダイヤのリングが、ブリリアントカ
ットのダイアが一周ぐるっとセッティングされているバンドリングと共にセット
されたいた。
いくら私がジュエリーに無知だといっても、これだけダイヤを使ったものならば
想像を絶する金額なのは分かるというものだ。
嬉しさを通り越して驚きで声を失っていると、課長がリングを手に取り、私の左
手をそっと掴む。
頭の中が札束でいっぱいになっていた私は、課長のその動きに反応してしまい、
身体を大きく跳ねさせてしまった。

「百花?」

心配そうに顔を覗きこまれると、小さな声で聞いてみた。

「これって、高いよね?」

私の青ざめた顔を見ると、お得意の盛大な笑い声が部屋中に響き渡った。

「なんだ、そんなこと気にしてたのか」

「き、気にするよ。だって、分相応じゃないし……」

そうだ。こんなちっぽけで貧相な私に、このリングは似合わない。左手を引っ込
めようと動かすと、グッと引き戻された。

「そんなこと関係ないだろ」

そう言われてもなぁ……。
俯いたままどうしようか考えていると、綺麗なお姉さんが私の横にしゃがみ込ん
だ。

「お名前でお呼びすることをお許し下さい、百花様。指輪だけに限ったことでは
 ないのですが、ジュエリーというものに分相応とか似合う似合わないはありま
 せん。身につける方が自身を持ってつけると、それに応えるようにジュエリー
 は輝きを放ち、今以上に素敵な女性にしてくれるんですよ。ご自分に自信を持
 って下さい」

もちろん今でもとても魅力的な女性ですけどね……。笑顔でそう付け加えると、
姿勢を正して課長に頭を下げた。

「差し出がましいことをして、申し訳ありませんでした」

「いえ、助かりました。こいつ、強情で」

「慶太郎さんっ! 強情って!!」

部屋中が笑いで包まれる。




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