美味しい時間
乱れた髪を直すのも忘れて、光の所在を確かめる。そこには、世界中で唯一つ、
私だけに作られた指輪が収まっていた。
あまりの輝きに、トロンとした目で見惚れていると、課長の大きな手で包まれて
いた右手をきゅっと握られる。
「何?」
指輪から目を離し、課長をまっすぐ見つめる。
「気に入った?」
「うん……とっても」
「そっか」
互い違いに組まれている指を一本づつ辿れば、課長の薬指にも指輪が嵌められて
いるのが確認できた。その指輪をツンツンと突付く。
「一緒だな」
「うん……」
「お互いこれを付けてれば、離れててもいつでも一緒だ」
「うん……」
課長の腕にもたれ掛かり、こくんと頷く。
「あっ、ところで慶太郎さん。この指輪って婚約指輪?」
でも一応ペアリングだし、婚約指輪じゃないか……。
じゃあ、何指輪になるんだろう?
「そうだな。まだ百花のご両親に挨拶も行ってないし、俺の親にも会わせてな
いからなぁ……。プロポーズ記念ってとこか」
はぁっ!? プロポーズ記念?
記念でこの指輪は、ありえないでしょっ!!
課長の金銭感覚って、どんなんなのよぉ。
私の目が点になっているのにも構わず、課長は言葉を続けた。
「正式に婚約が決まったら、ちゃんとした婚約指輪渡すから……」
「い、いらないっ!! これがあるから、婚約指輪も結婚指輪もいらない」
「お前、欲がないなぁ」
って、私の方がおかしいみたいな言い方しないでもらいたい。
でもまあ、ここで怒ってもしょうがないか。
課長の腕に自分の腕を絡ませ少しだけ頬を染めると、顔を見上げた。
「欲は……あるよ。私が一番欲しかったのは課長……慶太郎さん。その慶太郎さ
んが手に入ったんだもん。他に何もいらない……」
そう。どんな高価な宝石より課長がいてさえすれば、それだけで私は幸せになれ
るんだ。